【言葉に埋め込まれたサイン】 
 (10)Qの法則

 Qの法則【促音はイメージを強調する】
 [Q]とは、[っ]の音素記号のこと。促音(そくおん)[っ]は日本語の中では、母音をともなわない珍しい拍です。つまる音ともよばれ、文字通り、言葉の促音部分では喉を締めて息をつまらせるような発音になるため、言葉が途切れるような感じになります。  促音は、3400語(「言葉の意味としてイメージをもつ日本語」で、副詞や形容詞が多くを占めています)の中に最も多く登場する拍で、全体の約2割の言葉に促音が使われていました。

 英語のbag、box、cup、fit、map、net、pet、topをカタカナで書き表すと、バッグ、ボックス、カップ、フィット、マップ、ネット、ペット、トップとなって、どれも促音を含むことから英語にも促音が多いように思いますが、実は英語には促音「っ」にあたる音はありません。たとえば英語でのtopは、[to]の母音を発音したまま[p]で唇を閉じることで発音します。日本語の促音のように喉を締めて音をつまらせるようなことはしないのですが、これが日本人には[っ]の音に聞こえるというわけです。中国語にも促音にあたる発音方法がありません。ですから、「しっかり、やってください」が「しかりやてください」になったり「ちょっと待ってください」が「ちょと待てください」になったりすることがあります。外国人が話す日本語が不自然に聞こえることがあるのは、日本語に促音が多用されていることが関係していて、促音の存在が日本語の発音を難しくしている一因になっていると考えられます。
 逆に、日本人が、促音を使うことによって外来語に違和感を覚えるという現象も発生します。促音の後に無声音がくる場合には問題ないのですが、促音に有声音が続く場合には発音しにくくなるのです。無声音とは子音[K・S・T・P・H(F)]をもつ拍のことで、声帯を震わせずに出す音。有声音は喉を震わせて出す音で、ナ行音、マ行音、ヤ行音、ラ行音、ワ行音、濁音などです。ロビンフッドがロビンフットに、ビッグマックがビックマックに、iPadがアイパットに…、促音の後の有声音は発音しにくいため勝手に無声音に置き換えてしまうこともあります。[っ]+有声音は日本人が苦手な発音であるため、正しく発音してもらえないことがありますのでネーミングなどの際には注意が必要です。

 促音には、「あっと驚く」「かっとなる」「さっと動く」「すっと逃げる」「はっとする」「ぱっと消える」のようにスピード感を高めるための使われかたが多く見られますが、「ぐっと堪える」「じっと見る」など強さの表現や、「そっと去る」「ほっとする」といった穏やかな表現に用いられることもあります。
 促音[っ]は次のようなイメージを表す語に多く使われています。
[っ]:『速い』『短い』『安定した』『明確な』『狭い』『強い』『鋭い』『回転する』『丸い』

 『速い』『短い』『明確な』『鋭い』など、主としてスピード感やシャープな感じを表現することに使われますが、『安定した』『丸い』といった柔らかなイメージを表現する際にも用いられます。
 どきり⇒どっきり、ぷつり⇒ぷっつり、ばきばき⇒ばっきばきっ、ばたばた⇒ばったばった、ゆさゆさ⇒ゆっさゆっさなどは促音の挿入によってスピード感や鋭さを強調しています。また、のそり⇒のっそり、ふかふか⇒ふっかふか、ほかほか⇒ほっかほかのようにソフトなイメージの強調に用いられることもあります。ずしり⇒ずっしり、つるつる⇒つるっつる、ぴかぴか⇒ぴっかぴか、でかい⇒でっかい、おおきい⇒おっきい、ちいさい⇒ちっさいなどでは質や量を強調していると言えるでしょう。
 じいちゃん⇒じっちゃん、ばあちゃん⇒ばっちゃんでは親しみが増す感じがします。あっちゃん、まっちゃん、たっくん、やっくん、のっち、まっち、さっちー、まっきー。名前の愛称にもこれと似た使われかたをされることがあります。明奈⇒アッキーナ、優樹菜⇒ユッキーナのように拍数を増やしてまでも愛称に促音を挿入するケースも見られます。これらの促音が音の流れに変化を与え、インパクトを作り出す役割りを果たしていると考えられます。
 促音は様々なイメージの強調に効果を発揮していて、イメージをより明確に円滑に伝達するために日本人が積極的に言葉の中に取り入れてきた拍のひとつです。

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