【言葉に埋め込まれたサイン】 
 (12)Kの法則

 Kの法則【語頭のカ行音は言葉を引き締める】
 データとして用いた3400語中に登場する拍のうち、促音と撥音(単独で音節を構成する自立拍に対して、これらは母音をともなわない拍であり特殊拍とよばれます)を除くと、最も多いのが[か]です。他にも、日本語に多く含まれる音ベストテンには、[く][き]も入っています。「行」の単位で日本語の音の使われ方を見ても、最も多用されているのはカ行で、3400語を構成する拍(12726個)のうち13%強を占めていました。また、言葉の先頭の拍(最初の文字)に限って集計を行った結果では、[い][あ][か][お][き][し][こ]の順で、カ行は母音と並んで日本人が言葉の先頭に使いたがる音であることが分かります。

 なぜ日本人はこれほどまでにカ行を好むのでしょうか。まずは、カ行の五つの拍がもつイメージを見てみましょう。
[か]『明るい』『上品な』『固い』『乾いた』『小さい』『きれいな』『心地よい』『穏やかな』
[き]『鋭い』『明確な』『活発な』『抵抗感のある』『明るい』『きれいな』『派手な』『狭い』『強い』『嬉しい』
[く]『抵抗感のある』『満足な』『不満な』『丸い』『回転する』
[け]『粗野な』『意地悪な』『不快な』『優れた』『古びた』『明るい』『派手な』『愛情のある』『汚れた』
[こ]『細かい』『小さい』『軽い』『固い』『嬉しい』『満足な』『回転する』『丸い』

 もちろん、拍それぞれに特徴があるわけですが、カ行全体の印象は『固い』『明るい』『きれいな』『抵抗感のある』といったところでしょう。なお、『抵抗感のある』とは、音に対して嫌悪感や不快感を感じるということではなく、「スムーズではない機械的な動き」という意味を表したものです。「かくかく」や「かりかり」「きしきし」「こきこき」といった言葉に代表されるイメージです。
 軟弱な雰囲気がなく、キレのよさや凛々しさ感じさせるハード系のカ行の響きに私たちは惹かれるのだろうと考えられます。

 Jポップ、Kポップ、演歌、アニメソング、童謡など曲のジャンルを問わず、カラオケの曲名リスト約27000曲を対象に、どの拍から始まる曲名が多いのかを調査したところ、[あ(2334)][お(1445)][こ(955)][き(952)][か(936)][し(935)][は(923)][さ(852)]の順となりました。和語データでの順番と比較しますと、少し前後していますが、[あ][か][お][き][し][こ]は共通して上位に表れています。数字の上では[あ]のつく曲名が非常に多く、[あ]で始まる曲名だけで全体の8.6%を占めている点が大きな特徴です。これは曲名の始まりに「愛」「あなた」という単語が多用されているからという特殊な事情によるものですが、それでも上位に母音とカ行が並ぶことに変わりありません。曲の題名はいわば作詞家の感性から生み出されたキャッチコピーのようなものです。その先頭の音に、やはり母音とカ行が高い頻度で使用されていることは大変興味深い結果だと思います。

 ここで、カ行とともに日本語に多く使われている拍としてたびたび登場する[あ][お][い]をはじめとする母音のイメージについて見てみましょう。
[あ]『新しい』『高揚した』『安心な』『賑やかな』『粗い』『淡泊な』『明るい』『穏やかな』
[い]『愛情のある』『容易な』『継続する』『活発な』
[う]『嬉しい』『淡泊な』『長い』『暗い』『満足な』『余裕のある』『狭い』『落ち着かない』『悲しい』『不満な』
[え]『落ち着いた』『きれいな』『難しい』『安定した』『穏やかな』『上品な』『嬉しい』『鋭い』
[お]『粗い』『大きい』『広い』『劣った』『不安な』『安心な』

 カ行の拍では、固い、きれい、抵抗感などの質感や力感に関わるイメージが多くを占めていたのに対して、母音では『愛情のある』『嬉しい』『満足な』『穏やかな』など情緒に関わるイメージが目立ちます。
 言葉の先頭の拍として多く用いられる母音とカ行ですが、これれらは異なった役割を担っていて、カ行の拍は整然としたきちっとした雰囲気を作って言葉を引き締め、母音は情緒のあるヒューマンな雰囲気を醸し出す。そして、その効果を高めるために、特に語頭に用いられることが多い拍だと言えるでしょう。

 [K]の音についてひとつ注意点があります。カ行の中で[け]だけは異質だということ。[け]は、他のカ行の拍[か・き・く・こ]と異なり、『粗野な』『意地悪な』『不快な』『愛情のある』といった(どちらかと言えばネガティブな)情緒的なイメージをもっていて、カ行よりも母音の雰囲気に近い感じです。ですから、[け]からは、カ行の特徴であるメカニカルなイメージは伝わりません。また、日本語に多く取り入れられているカ行の中で、他のカ行音に比べて[け]の使用頻度だけが低いことから、日本人があまり好んでは使わない拍だと考えることができます。

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