【言葉に埋め込まれたサイン】 
 (14)日本人に好かれない音

 和語を構成する拍として使用される数が少ないものとなると、まっ先に[きゃ・きゅ・きょ]などの拗音と[ティ・シェ・フォ]などの外来音が挙げられるでしょう。拗音は古代日本語には存在しなかったもので、中国から入ってきた漢字音によって日本語として定着したものです。また、外来音は明治維新以降に本格的に入ってきたとされています。ですから、和語を集めたデータである3400語中には拗音は比較的少なく、外来音はまったく含まれることはありません。ここでは拗音と外来音の拍を除き、五十音と濁音を対象として、使用される数が少ない拍について考察します。  3400語中で使用が少なかったのは、[ぞ][ぺ][ぜ][へ][ぬ][げ][べ]で、これらは、日本人が好んでは使わない拍だということになります。日本人に好かれないこれらの拍は、どのようなイメージをもつのでしょうか。
[ぞ]『満足な』『長い』『落ち着かない』『多い』『粗い』『嬉しい』『暗い』『鈍い』『曖昧な』『派手な』『容易な』
[ぺ]『弱い』『滑らかな』『賑やかな』『軽い』『広い』『粗野な』
[ぜ]『落ち着いた』『明確な』『狭い』『物静かな』『安定した』『余裕のある』『安心な』『継続する』
[へ]『劣った』『弱い』『緩慢な』『粗野な』『安心な』『落ち着いた』『穏やかな』
[ぬ]『柔らかい』『濃い』『優れた』『不快な』『滑らかな』『湿潤な』『安心な』『穏やかな』
[げ]『粗野な』『汚れた』『暗い』『地味な』『悲しい』『鋭い』『落ち着いた』『緩慢な』『劣った』『淡泊な』『不快な』
[べ]『粗野な』『濃い』『賑やかな』『滑らかな』『広い』『湿潤な』

 やはり、『粗野な』『不快な』『劣った』などのネガティブなイメージが目立ちます。[ぞ]と[ぜ]はそれほど悪いイメージではないと思うのですが、3400語中にはあまり登場しませんでした。音の響きの印象が悪く、使用頻度が低い拍([ぺ][へ][ぬ][げ][べ])については、「妖怪人間ベム」「ゲゲゲの鬼太郎」「妖怪ぬりかべ」など、不気味さや奇怪さを表現するときに用いると効果的な場合もありますが、よほど特殊な場合以外は積極的に使うべき拍ではないと言えるでしょう。
 使用頻度の低い拍の中に母音[e]をもっているもの([ぺ][ぜ][へ][げ][べ])が多いのも特徴的です。これら以外にも[で][ね][せ][え]は比較的使用頻度が低い拍であり、母音[e]をもつ拍です。先ほどのKの法則では、同じカ行でも[け]は異質であること、Rの法則では、[れ]は他のラ行音とは異なったイメージをもつことをお話しました。[け]はカ行の中で使用頻度が最も少ない拍、[れ]はラ行の中で最も使われかたが少ない拍でした。大まかな傾向ではありますが、どうやら私たちは、母音[e]をもつ拍をあまり好まないようです。
 もちろん、言葉の中に母音[e]の拍を含むからといって、必ずしもその言葉全体のイメージが悪くなるわけではありません。一つの拍が言葉全体のイメージを決めるのではなく、複数の拍の集合によって言葉の音のイメージが生み出されるのですから。それでも、ネーミング作成の際などには、一つひとつの拍がもつ性質を知っておけば、実体とイメージがかけ離れた不用意なネーミングを回避する助けになるでしょう。

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