【ネーミングから見える日本人の感性】 
 (16)女の子の名前は「かみなり様」で出来ている

 女性の名前の変遷の歴史は次の四つの大きな潮流に分けることができます。
 (1)仮名二文字の時代
 大正時代の前半(1919年くらいまで)の女性の名前は、きみ、はる、ヨシ、ハル、ハナ、キヨ、フミ、トミ、マサなど仮名二文字が大半を占めていました。
 (2)「〇〇子」の時代
 仮名二文字に代わって女性の名前のほとんどを〇〇子が占めるようになったのは大正時代の後半からで、「子」の全盛時代が始まったのはかれこれ百年近くも前のことでした。その後、約五十年間の長きにわたって、〇〇子の時代が続きます。〇〇子は、もともと、皇族や華族のみに与えることが許された高貴な名前であり、子どもの幸せを願う親が皇族や華族にあやかりたいと「子」を付けたことから一般庶民に広まったと言われています。この期間の年別集計のトップテンに登場する名前で子の字をもたなかったのは、明美、真由美、由美、ゆかり、直美くらいです。
 (3)「子」が減少する時代
 〇〇子一辺倒だった時代を経て、昭和45年(1970年)くらいから変化が見え始めます。「子」の字が徐々に減少し、〇〇子に代わって〇〇美、〇〇香が増え始め、昭和60年(1985年)くらいまでの間、名前の末尾が「子・美・香」の名前が入り乱れることになります。
 (4)「子」がほぼ消滅した時代
 昭和が終わりに近づくころには、「子」はほぼ姿を消し、名前の末尾にこだわらない自由な音の組み合わせの時代へと入り、現在に至ります。かと言って、〇〇子が完全に消滅したというわけではありません。最近のベストテンにも「奈々子」「桃子」「莉子」などが登場していますし、まだまだ一部の親御さんには根強い人気があります。また、〇〇子が激減したことによって「こ」の音が新鮮に感じられることから「湖」「瑚」「胡」などに文字を変えた「こ」の復活の兆しがあるとも言われています。

 平成20年以降に特に多く見られるようになった名前として、結愛(ゆあ)、結菜・優奈(ゆうな)、葵(あおい)、陽菜(ひな)、結衣(ゆい)、杏(あん)、美羽(みう)、美優(みゆ)、心愛(ここあ)、愛菜(まな)、美咲(みさき)、さくら、莉子(りこ)、美桜(みお)、ひなた、杏奈(あんな)、七海(ななみ)などが挙げられます
 あなたの知り合いの赤ちゃんにも同じ名前の女の子がいるのではないでしょうか。その年に活躍した女優さんやアスリートの名前が人気になるなど、毎年少しずつ入れ替わりながらトップテンは変化してゆきます。最近の傾向として、[ゆ・み・あ・な]を含む名前が好まれているようですが、これらは昭和の時代にも「あゆみ」・「ゆみ」などに見られる人気の音でした。平成に入ると「あゆ(み)」は「ゆあ」に、「ゆみ」は「みゆ」にリメイクされて再登場するなど、音の順番を入れ替えることで新しい名前を作り出す工夫も行われています。

 平成生まれの女の子一万人の名前を集計した結果、最も多く使われていた拍は[み]、続いて[な][か][り][ゆ][あ][さ][ま][ほ]の順であることが分かりました。これらの拍を含む代表的な名前(年別ベストテンにランクインしたことのある名前の読み)は次の通りです。
[み]みほ、ひとみ、みさき、ななみ、みく(みらい)、みづき、みう、みゆ(みゆう)、みお、なつみ、あみ
[な]かな、ちなつ、ななみ、なつみ、なな、ななこ、ひな、ひなた、ゆな(ゆうな)、れいな(れな)、あんな、まな、りな
[か]かな、かえで、かのん、ももか、ゆうか、あすか、あやか、あかね、はるか
[り]しおり、りこ、りん、りな
[ゆ]みゆ(みゆう)、ゆな(ゆうな)、まゆ、ゆうか、ゆい
[あ]あすか、あやか、あかね、あおい、あやの、あん、あんな、ここあ、あみ
[さ]みさき、さき、さくら
[ま]まい、まな、まゆ、まお
[ほ]みほ
 表中で[ほ]は「美穂」に含まれるのみで、あまり使われない拍のように思えますが、かほ、さほ、しほ、ちほ、まほ、りほ、みずほなど「〇〇ほ」の形で平成の名前の末尾によく見られるようになった拍です。
 平成生まれの女の子の名前は主に九つの拍『かみなりさま+ゆ・あ・ほ』で出来ていると言えそうです。表中の、みほ、ななみ、みゆ、あみ、かな、ゆな、まな、りな、まゆなど、これら九つの拍だけの組み合わせによって出来上がる名前も多数生まれています。

 『かみなりさま+ゆ・あ・ほ』の九つの拍はそれぞれ次のイメージをもっています。
[か]『明るい』『上品な』『固い』『乾いた』『小さい』『きれいな』『心地よい』『穏やかな 』
[み]『容易な』『新しい』『優れた』『細かい』『短い』『きれいな』
[な]『悲しい』『不満な』『細い』『愛情のある』『容易な』『長い』『弱い』『曖昧な』
[り]『明確な』『安定した』『鋭い』『鈍い』『遅い』『丸い』『回転する』
[さ]『乾いた』『淡泊な』『劣った』『地味な』『悲しい』
[ま]『細かい』『継続する』『狭い』『丸い』
[ゆ]『余裕のある』『大きい』『遅い』『満足な』『落ち着いた』『上品な』『穏やかな』『安定した』『不安定な』『嬉しい』『広い』『不安な』『弱い』
[あ]『新しい』『高揚した』『安心な』『賑やかな』『粗い』『淡泊な』『明るい』『穏やかな』
[ほ]『優れた』『心地よい』『嬉しい』『細い』『穏やかな』『淡泊な』『安心な』『満足な』『長い』『少ない』『弱い』『柔らかい』『余裕のある』『容易な』
 これらから、子どもの名前に込められた親の願いを読み取ることができます。明るさ・上品さ・美しさの類を求めた[か][み][あ]、柔らかさ・優しさの類を求めた[な][ゆ][ほ]、すっきり・スマートの類を求めた[り][さ][ま]

 では、昭和生まれの女性の名前ではどうでしょうか。同じく一万人の名前を集めて集計を行いました。名前の読みで最も多かったのは「けいこ」。二番目以降は「ようこ」「ゆうこ」「じゅんこ」「さちこ」「ともこ」「あきこ」「きょうこ」…、15番目までを〇〇子が占め、16番目にやっと「子」以外の「まゆみ」が出てきます。多く使われていた拍は、[こ][み][え][か][さ][り][よ][な][ま]の順で、平成生まれの名前との違いは[ゆ・あ・ほ]がなく、代わりに[こ・え・よ]が入っていること。[こ][え][よ]が多いのは、名前の末尾に「子」・「恵(江)(枝)」・「代」が多用されているためです。注目すべきは、ここでも『かみなり様』が健在であること。

 平成生まれの女性=『かみなりさま+ゆ・あ・ほ』
 昭和生まれの女性=『かみなりさま+こ・え・よ』

 昭和から平成へ、時代の変化とともに女性の名前も多様化しましたが、日本人が音に対してもっている本来の感覚に大きな変化はなく、いつの時代も親が女の子の名前に託す思いは、明るく、美しく、優しく、スマートに。

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