【ネーミングから見える日本人の感性】 
 (17)けんた君は男らしい?

 平成生まれの男性一万人の名前を集計した結果、多く使われていた拍は[た][ん][と][け][き][や][ま][ゆ][く]の順となり、平成女性の名前と共通だったのは[ま]と[ゆ]のみで、タ行と撥音[ん]が上位に表れ、カ行が取り入れられるなど、女性名と大きく異なっていました。

[た]『難しい』『新しい』『多い』
[ん]『活発な』『強い』『重い』『固い』『静かな』『穏やかな』『回転する』『丸い』
[と]『優れた』『落ち着いた』『太い』『濃い』
[け]『粗野な』『意地悪な』『不快な』『優れた』『古びた』『明るい』『派手な』『愛情のある』『汚れた』
[き]『鋭い』『明確な』『活発な』『抵抗感のある』『明るい』『きれいな』『派手な』[狭い』『強い』『嬉しい』
[や]『安心な』『きれいな』『穏やかな』『上品な』『物静かな』『容易な』『落ち着いた』『派手な』『余裕のある』『不満な』『曖昧な』『地味な』『柔らかい』『押し迫る』
[ま]『細かい』『継続する』『狭い』『丸い』
[ゆ]『余裕のある』『大きい』『遅い』『満足な』『落ち着いた』『上品な』『穏やかな』『安定した』『不安定な』『嬉しい』『広い』『不安な』『弱い』
[く]『抵抗感のある』『満足な』『不満な』『丸い』『回転する』

 これらの拍は二つのイメージに分けることができます。元気・男らしさをイメージさせる[た][ん][け][き][く]と、包容力・優しさをイメージさせる[と][や][ま][ゆ]。親は日本人の感性にしたがって、我が子への期待を名前の音に織り込みます。わんぱくで男らしいケンタ君と優しくて穏やかなヤマト君が両イメージの代表といったところでしょうか。

 女性の名前から「子」が激減したように、男性の名前にも減少した文字があります。昭和の男性名の末尾文字トップテンは「一・夫・雄・郎・彦・男・治・二・司・明」。一方、平成では「太・也・平・樹・介・人・郎・大・一・貴」。昭和から平成に受けつがれたのは「一」と「郎」のみ。「お」(夫・雄・男)、「じ」(治・二・司)をはじめとする末尾文字は、平成ではほとんど使われることがなくなりました。
[お]『粗い』『大きい』『広い』『劣った』『不安な』『安心な』
[じ]『暗い』『短い』『緩慢な』『地味な』『汚れた』『意地悪な』『変化する』『湿潤な』『継続する』『不快な』『愛情のある』『落ち着いた』『落ち着かない』
 「〇〇夫(雄・男)」「〇〇治(二・司)」が使われなくなったのは、平凡で意味的な美しさがないという理由もあるでしょうが、平成の親たちが[お][じ]の拍がもつネガティブな音の響きを敬遠するようになったとも考えられます。もし、[お]と[じ]の文字を嫌っただけであるなら、[お]と[じ]の音に対応する代替の文字を使うはずですが、文字とともに音も消えてしまいました。

 よい音、好かれる音は時代を越えて受けつがれ、使われ続けます。昭和時代に人気だった「ひろし」の「ひろ」は平成の「大翔(ひろと)」「大輝(ひろき)」として、「ゆういち」「ゆうじ」の「ゆう」は「悠斗」「優太」として、「しょういち」「しょうじ」の「しょう」は「翔太」「翔」として、「しゅんたろう」「しゅんじ」は「駿輔」「駿」として、「たつお」は「達也」と姿を変えて長く愛され続けています。

 現在、男の子の名前に好んで取り入れられている拍[た][ん][と][け][き][や][ま][ゆ][く][せ][し]のうちのいくつかは次の世代には消えてなくなり、新しい拍が割り込んでくることでしょう。しかし、男らしい音[ん][き]や優しい音[や][ゆ]は消えることなくこれからも長く残るのではないでしょうか。

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