【ネーミングから見える日本人の感性】 
 (18)理想のペットは「コアラ」?

 今や犬と猫を合わせた日本のペットの数は2000万以上に上り、これは子どもの数(15歳以下、約1700万人)を軽く超えています。つまり、私たちにとって、赤ちゃんの命名を行うよりもペットの名前をつける機会のほうが多いということになります。また、赤ちゃんの名前は親が考えることが多いのですが、ペットの名前では子どもを含めた家族ぐるみで検討されるとことがあるという点で、ペットの名前には日本人の感性が大いに織り込まれていると言えるかもしれません。

 「我が家のペット・名前診断」http://isop.bunsekishi.com/petimage.htm は、WEB上でペットのネーミングイメージが分析できる無料コンテンツです。ペットの名前データの収集を目的として作成したもので、平成23年10月の公開から、毎月コンスタントに数千人にご利用をいただいております。利用者は現在飼っているペットの名前、またはペットにつけたいと思っている名前を入力し、ペットの種別(犬、猫、その他)と性別を選択して分析を行いますが、データは分析時に自動的に保存される仕組みになっています。最近半年間に蓄積された犬の名前(オスとメスを合わせたもの)約15000件のデータを使用してペットの名前の傾向を調査しました。

 まずは、平成のワンちゃんの名前ベスト50を発表することにしましょう。
1位~10位:モモ・マロン・レオ・ココ・ソラ・チョコ・レオン・ハナ・サクラ・ナナ
~20位:モコ・ココア・ルナ・ノア・フク・モカ・コタロウ・ハル・ラッキー・プリン
~30位:クッキー・ノエル・ミルク・クウ・リアン・ライム・コテツ・ラン・リン・メイ
~40位:ルーク・コロ・アンズ・ショコラ・クルミ・マル・ベル・ロン・ユズ・ハッピー
~50位:タロウ・カノン・アンジュ・ラム・ヒナ・ティアラ・サスケ・コロン・リク・ラブ
(最新データによる「犬の名前・猫の名前TOP100」をこちらのページに掲載しました。)

 モモ、レオ、ココなど、人気のペットネームのちょうど半数が二文字(二拍)の名前です。短い名前のほうが呼びやすいということもありますが、トイ・プードル、チワワ、ミニチュア・ダックスフンド、ポメラニアン、柴犬といった人気の小型犬には短い名前が似合うという感覚が働いているのかもしれません。実は、平成の女の子の名前にも「あい、もえ、あや、まい、ひな、ゆあ、ゆな、あん、りこ、みう、ひな、みお、ゆい」、男の子では「れん、そう、りく、しょう、しゅん、そら、ゆう」など二拍の名前が増えていて、ソラ・ヒナ・リクなどはペット名の上位にも人名の上位にも登場します。呼びやすいからという理由は納得できるのですが(言葉は悪いですが)、子どもの名前のペット化が進んでいるようにも感じられ、これでいいのだろうかと心配になってしまいます。

 さて、15000匹のワンちゃんの名前を整理し、分析数が多かった名前の上位300をピックアップして調べたところ、好んで使われている拍は、[る][ん][こ][り][ら][ろ][あ][ち][く][ま]の順でした。私たちはペットに何を感じ、何を求めて名前を与えているのでしょうか。
[る]『滑らかな』『変化する』『古びた』『余裕のある』『遅い』『長い』『太い』『軽い』『不快な』『丸い』『回転する』
[ん]『活発な』『強い』『重い』『固い』『静かな』『穏やかな』『回転する』『丸い』
[こ]『細かい』『小さい』『軽い』『固い』『嬉しい』『満足な』『回転する』『丸い』
[り]『明確な』『安定した』『鋭い』『鈍い』『遅い』『丸い』『回転する』
[ら]『不安定な』『明るい』『粗い』『新しい』『滑らかな』『穏やかな』『回転する』
[ろ]『広い』『細い』『鈍い』『不安定な』『汚れた』『遅い』『余裕のある』『長い』『古びた』『不安な』『容易な』『弱い』『劣った』『落ち着かない』『粗野な』『回転する』『丸い』
[あ]『新しい』『高揚した』『安心な』『賑やかな』『粗い』『淡泊な』『明るい』『穏やかな』
[ち]『小さい』『少ない』『細かい』『狭い』『固い』『明確な』『変化する』『鋭い』『短い』『劣った』
[く]『抵抗感のある』『満足な』『不満な』『丸い』『回転する』
[ま]『細かい』『継続する』『狭い』『丸い』

 ラ行音がずらりと並び、『回転する』または『丸い』イメージをもつ拍が目立ちます。
 [こ・ま・ち]は可愛らしさ(小さい、ちょこちょこ動く様子)を表すのに効果的な音です(ココ・チョコ・コテツ・コロ・チロ・イチゴ・チコ・マメ・コマチ)。
 [り・あ]はハッキリとした性格、明るい性格を表すのに適しています(プリン・シェリー・リリー・リキ・カリン・リアン・アリス・ノア・アミ・アヤメ)。
 [る・ら・ろ]は癒しを感じさせる音の響きです(ルナ・ノエル・ミルク・マル・ライム・ララ・ラム・マロン・アロマ・メロン)。
 可愛らしくて(こ・ま・ち)、明るくて(り・あ)、飼い主を癒してくれる(る・ら・ろ)、理想のペットの名前は「コ・ア・ラ」に代表される音の響きだと言えそうです

 昔の犬の名前の定番と言えば何を思い浮かべるでしょうか。ポチ? シロ? 映画やドラマでお馴染みの「南極物語」、第一次南極観測隊と一緒に南極に渡った樺太犬は、タロ、ジロ、シロ、クロ、アカ、リキ、テツ、クマ、ポチ、ゴロ、モク、シロ子、ベック、ジャック、ペス、デリー、アンコ。今から半世紀以上も前の犬の名前ですが、ほとんどに、現代のペットの音「る・ん・こ・り・ら・ろ・あ・ち・く・ま」が含まれています。
 ポチ・チビ・クロ・シロからモモ・マロン・レオ・ココ・ソラ・チョコ・レオンへ。古くさい名前から今風の名前、洋風の名前へと変わりましたが、音の使われかたに大きな変化はないようです。

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