【右脳を刺激する言葉】 
 (2)教えられなくても知っている言葉

 朝から頭痛がする。そんなときあなたはどんな言葉で体の不調を知らせるでしょうか。おそらく、次のようなオノマトペを使って症状を表現することになるでしょう。
 頭が割れるように痛いときは「ガンガン」、脈打つような強い痛みのときは「ズキズキ」、鋭い痛みなら「キリキリ」、針が刺すような痛みなら「チクチク」。他にも、頭皮が引っ張られるような感じなら「ピリピリ」や「ヒリヒリ」、痺れるような感じなら「ジンジン」などといった痛みも考えられます。
 私たちはたった四文字の言葉で頭痛の激しさや状態の違いを的確に伝えることができます。もし、オノマトペがなかったら、ガンガン=頭の中をハンマーで殴られているような激しい痛み、ズキズキ=短い周期で脈打つように続く強い痛み、キリキリ=頭の中の一部分が締めつけられるような鋭い痛みなどと表現するしかありません。
 笑いを表すオノマトペ「けらけら、げらげら、くすくす、ころころ、へらへら、にやにや、にやり、にこにこ、にっこり、にたにた」などからもニュアンスの違いが感覚的に伝わってきます。「ははは、ひひひ、ふふふ、へへへ、ほほほ、くくく、けけけ、ぷぷぷ」などではさらに分かりやすいのではないかと思います。
 あなたは子供のころ、これらのオノマトペの違いを誰かから教えられたでしょうか。国語辞典をひいて意味の違いを調べたでしょうか。私たちはこれらの意味を教えられていなくても、どのオノマトペを使えば相手に感覚を伝えられるかを直感的に理解していて、痛みや笑いの感覚を互いに共有することができています。教えられなくても知っているというのは言い過ぎだとしても、ニュアンスの違いを容易に理解することができて、一度知れば使い方を間違えたり忘れたりすることのない、感覚と意味が一致した言葉だと言えるでしょう。

 オノマトペによる直感的なイメージの共有には、言葉の音の響きから受ける印象が大きく関わっていると考えられます。言葉の音の響きから伝わるイメージは曖昧で、その感じ方は人によって微妙に違っていることでしょう。しかしそれでも私たちは、音に対してある程度の共通感覚をもっている。そう考えるのが自然だと思えます。

 商品名などにも、オノマトペの効果を利用して感覚にダイレクトに働きかけるものが多く見られます。プッチンプリン、パックンチョ、ザクザククッキー、ギザギザポテト、つぶつぶコーン、カリガリ君、チョロQ、ゴキブリホイホイ。これらには、商品の説明をするまでもなく食感や形状などのイメージを商品名によって伝えることができるという利点があります。商品名ではありませんが、私がこれまでで最も印象に残っているのは「株式会社ギュギュギュギュギュイーン」という社名です。現代版オノマトペとも言えるこの社名からは、うなりをあげるエンジンの響き、車が疾走する感じがダイレクトに伝わり、モータースポーツ関連の事業を行う会社であることを容易に理解することができます。[ギュ]の数がいくつだったかは思い出せないとしても、[ギュ]がいくつも続くエンジン音のする会社としてこの社名を忘れることはないでしょう。

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