【ネーミングから見える日本人の感性】 
 (22)ファミレスのプライド

 料理が美味しい、接客のシステムが好き、コストパフォーマンスがよい。人々はそれぞれの理由によってお気に入りの飲食店に足を運びます。お店の側も、一年中何らかのイベントを開催して、集客に工夫を凝らしています。よい雰囲気のお店にしたい。店名を決める際にも大いに検討がなされたものと思います。

 ここでは、デニーズ・ガスト・サイゼリア・ジョナサンなどのファミレス、ドトール・タリーズ・スターバックス・プロントなどのカフェチェーン、すき家・吉野家・なか卯・ほっともっと・かまどや・オリジン弁当などの牛丼店や弁当店、マクドナルド・ロッテリア・モスバーガーなどのファーストフード店、びっくりドンキー・ペッパーランチ・ブロンコビリーなどのステーキやハンバーグの店といった、いわゆる外食チェーン145の店名について調査、検証します。なお、和民・村さ来・白木屋・土間土間など、主に酒類を提供することを目的とする居酒屋チェーンにつきましては、質が異なると判断して対象に含めませんでした。

 外食チェーンのコンセプトと言えば、家族で来客、リーズナブル。気軽に食事ができるお店を連想するため、さぞや店名も軽く明るい感じで、それこそ半濁音が多用されているのではないかと思いましたが、結果はそうではありませんでした。
[ん][ー][っ][や][ど][か][と][ ま]
 これが外食チェーンの店名に多く使われている拍です。撥音、長音、促音が見られるのはいつものことですが、上位に[や]と[ど]、特に濁音が現れている点が驚きです。[や]は穏やかで柔らかな雰囲気を作り、安らぎを感じさせる拍ですからファミレスやカフェに似合う音としてうなずけますが、[ど]は「どんどん」「どしどし」「どすん」「ド迫力」「超ド級」といった使われかたをする重さと勢いを感じさせる音で、ソフトな[や]の音とは反対のイメージをもっています。
[や]『安心な』『きれいな』『穏やかな』『上品な』『物静かな』『容易な』『落ち着いた』『派手な』『余裕のある』『不満な』『曖昧な』『地味な』『柔らかい』『押し迫る』
[ど]『高揚した』『重い』『安定した』『多い』『濃い』『汚れた』『難しい』『落ち着いた』
 濁音を含む店名を調べてみたところ、145店中90の店名が該当していました。これは全体の62%にあたります。和語データでの濁音を含む言葉は3400語中1389語で、日本語では約41%の言葉に濁音が含まれています。一般的な言葉に比べて高い比率で濁音が用いられていることが分かります。

 さて、外食チェーンの店名の濁音のうち、上位は[ど][ず][が][ば]でした。
[ず]『太い』『難しい』『遅い』『粗野な』『安心な』『重い』『強い』『継続する』『落ち着いた』『鈍い』『物静かな』
[が]『長い』『賑やかな』『難しい』『固い』『粗野な』『安定した』『抵抗感のある』
[ば]『高揚した』『乾いた』『派手な』『粗野な』『強い』『粗い』『速い』『劣った』『濃い』『優れた』
 これらの濁音からは、主として荒っぽい感じや威勢のよさ、賑やかさ、重厚感が伝わります。「こじんまりとしたお子様向けのお店ではないぞ」、「料理だってダイナミックで、安っぽくないぞ」。そのようなプライドが音に込められているのではないでしょうか。

 また、長音[ー]の使われかたでは、[モスバーガー][スターバックス][リンガーハット][バーミヤン][カーサ]といった渡り音[aa]を作りだす長音が最も多く用いられていました。
[aa]『大きい』『多い』『高揚した』『賑やかな』『広い』『新しい』
スケールの大きさを伝えようとする外食チェーンの意向が感じられます。

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