【ネーミングから見える日本人の感性】 
 (25)ゆるキャラの基本は「ま・っ・た・り」

 ゆるキャラとは、地域の活性化、名産物やイベントの紹介などに活躍するゆるいマスコットキャラクターの総称です。そのブームの火付け役となったのが彦根城の記念イベント用キャラクターとして発表された「ひこにゃん」ではないでしょうか。その後、熊本県のマスコットキャラクター「くまモン」や今治市をイメージしたマスコットキャラクター「バリィさん」、非公式ゆるキャラでありながら超絶人気となった「ふなっしー」などのスターキャラが誕生しています。

 2008年の新語・流行語大賞に「ゆるキャラ」がノミネートされていたことからも、この言葉が定着したのはこのころからではないかと思われますが、その前身として、2000年ごろに人気を博した「たれぱんだ」や2005年ころの「まりもっこり」が土壌を作っていたと考えられます。今や、日本の各地でゆるキャラが産み出され、数え切れないほどのマスコットキャラクターが存在するようになりました。

 ネット上のあちこちでゆるキャラ人気投票サイトを見かけるようにもなり、ここでは比較的人気が高いと思われる315のゆるキャラを対象に名前の傾向を探ります。
 名前を拍に分解して多い順に並べると[ん][く][ちゃ][ま][っ][ー][た][る][り]となります。
 ただし、ゆるキャラの末尾には「ちゃん」(61/315キャラ)、「くん」(49/315キャラ)、「まる」(22/315キャラ)、「さん」(7/315キャラ)、「にゃん」(6/315キャラ)といった、ゆるキャラ特有の接尾語とも言えるような拍が付属するものが多いため、これらが[ちゃ][ん][く][ま][る]の出現数を押し上げているという事情を考慮しなければなりません。「ちゃん」「くん」「まる」「さん」「にゃん」を外した集計では、[ちゃ][く][る]が上位から姿を消すことを確認しています。
 [ちゃ][く][る]のイメージは次の通りで『丸い』が共通しています。つまり、ちゃん・くん・まるによって丸っこい感じが付加されていると言えます。
[ちゃ]『小さい』『湿潤な』『賑やかな』『粗野な』『固い』『軽い』『丸い』
[く]『抵抗感のある』『満足な』『不満な』『丸い』『回転する』
[る]『滑らかな』『変化する』『古びた』『余裕のある』『遅い』『長い』『太い』『軽い』『不快な』『丸い』『回転する』

 長音では、軽自動車・コンパクトカーのネーミングの特徴の一つとして現れていた渡り音と同じ[ii]が多く使われていました(ふなっしー、いなッピー、カブッキー、チャミーなど)。渡り音[ii]には丸いイメージはありませんが、『小さい』『細かい』ものを表現するのに適した音の響きをもっています。可愛らしさを伝えたいという気持ちが渡り音[ii]に込められているのでしょう。

 続いて他の上位の拍について見てみましょう。
[ん]『活発な』『強い』『重い』『固い』『静かな』『穏やかな』『回転する』『丸い』
[っ]『速い』『短い』『安定した』『明確な』『狭い』『強い』『鋭い』『回転する』『丸い』
[た]『難しい』『新しい』『多い』
[ま]『細かい』『継続する』『狭い』『丸い』
[り]『明確な』『安定した』『鋭い』『鈍い』『遅い』『丸い』『回転する』
 ここでも丸っこい感じの音が好まれて使われていることが分かります。ゆるキャラの名前に多用されている拍を並び替えてできる「まったりクルちゃん」や「まったりん」が最もゆるキャラっぽいネーミングだと言えるのかもしれません。

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