【右脳を刺激する言葉】 
 (3)類は友を呼んだ

 そもそも音にイメージを感じるなんて気のせいかもしれない。たまたまそれっぽい言葉が目に付いただけかもしれない。
 ちょっと調べてみようかなという軽い気持ちから言葉の音の解析が始まりました。調べてみて何も見つからなければそれはそれでいい。興味本位で始めた調査でしたが、作業を進めるうちに意味(イメージ)と音との不思議な関係が見えてきました。
 最初に行ったのは、明るいとか暗いとか意味に何らかのイメージをもつ和語を集めること。解析用のデータとして用いるための3400余りの言葉が集まりました。
 第一段階として、言葉がランダムな音の組合せでできていると仮定しました。もし、言葉が音と無関係に作られているとしたら、どんなことが起こるでしょうか。私の調査はそこからスタートします。
 ランダムに音が使われているのなら、3400語中には[あ]でも[い]でも[ぜ]でも[ぞ]でもどれも同じ比率で含まれることになります。しかし、予想していた通り、音によって使われる頻度は異なっていました。日本語に多く使われる音とあまり使われない音がある。これは想定の範囲内。きっと、日本人が発音しやすい音やしにくい音があるだろうし、日本人が好む音と好まない音もあるだろう。使用頻度にばらつきがあるのは不自然なことではないと考えられます。

 次に言葉をイメージ別に分けてみました。柔らかいイメージのグループ、明るいイメージのグループ、重いイメージのグループといった具合です。「明確なイメージ」のグループを眺めていて気づいたことがありました。[き]の音の多さが目立つのです。  これは不思議です。音によって日本語全体での使用頻度が異なることは理解できます。しかしなぜ特定のグループに特定の音が多く現れるのでしょうか。無造作に選択された音から言葉が成り立っているとするならば、どのグループにも同じような比率で[き]の音が現れるはずです。そこで、明確なイメージに対して意味的に対極にある曖昧なイメージのグループを見てみると、今度は[き]の音がほとんど見当たりません。
 やはり、イメージによって音が使い分けられている。日本人はイメージに合わせて言葉の音を選んで組み立ててきたのではないかと考えられるのです。

 和語データから[き]の音を含む和語を抜き出してみると、「いきいき」「うきうき」「きっかり」「きっちり」「きびきび」「きらきら」「きらびやか」「きりきり」「くっきり」「しゃきしゃき」「ずきずき」「すっきり」「てきぱき」「どきどき」「はきはき」「ばきばき」「はっきり」「ぼきぼき」「ぽきぽき」「めきめき」など、同じ傾向の雰囲気をもつ言葉に[き]が多用されていることが分かりました。これらはどれも、明確さ・強さ・明るさ・鋭さなどシャープな方向を向いた言葉であり、曖昧さ・弱さ・暗さ・鈍さを表す語に「き」が使われることはほとんどないのです。私たちは、[き]の音にそのようなイメージを感じながら、言葉の中に組み入れてきたのです。
 もちろん、[き]だけに限らず、日本語の中でそれぞれの音がそれぞれの役割を果たしていました。たとえば[ほ]は、「ほかほか」「ほくほく」「のほほん」「ほろほろ」「ほんのり」「ほんわか」「ほのか」「ほやほや」など心地よさや安心感、温かさを表す語に多く見られます。激しい意味を表す言葉に[ほ]の音が使われることはあまりありません。[ぼ]や[そ]は弱さや暗さを表す語に用いられ、強いイメージや明るいイメージの語にはほとんど使われていませんでした。

 言葉のイメージの種類は「大きい」「小さい」「容易」「困難」など無数にありますが、和語をイメージ別にグループ分けしてゆくと、比較的多くの言葉が集まるグループ(「強い」「弱い」「多い」「速い」「不快」など)とそうでないグループ(「恐い」「醜い」「厳しい」「甘い」など)が生まれます。そのイメージを表すのに多様な日本語が用意されているグループと、語彙が少ないグループがあるというわけです。また、言葉によっては複数のグループに属するものもあります。たとえば「うきうき」という語は「嬉しい」「明るい」「落ち着かない」「軽い」の四つのグループに属しています。その言葉がどのグループに属すかの判断は、国語辞典での説明文をもとに行いました。
 どのグループにどの音が多く使われているかを集計するという都合上、語彙の少ないグループはデータ不足と判断され、残念ながら調査の対象から排除されることになります。こうして残った68のグループについて集計を行い、一つひとつの音がどのようなイメージに多く使われるのか、使われないのかを解析しました。

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