【言葉に埋め込まれたサイン】 
 (9)日本人が好きな音

 3400の単語(意味と音の関係を解析するためにデータとして集めた「言葉の意味としてイメージをもつ語」)を構成する音を集計したところ、多く使われている音のベストテンは次の通りでした。
[っ][ん][か][し][く][り][た][い][ら][き]
 最も多い音は促音(そくおん)[っ]、二番目に撥音(はつおん)[ん]。カ行からは[か]と[き]が、サ行からは[し]が、タ行からは[た]が、ラ行からは[り]と[ら]がランクイン。これらは、日本人が好んで言葉に組み込んできた音だと言えます。  さらに、「行」のくくりで集計を行った場合には、最も多いのがカ行の音、二番目がラ行でした。この後にタ行、サ行、ア行、マ行、ナ行、ハ行、ヤ行と続きます。
 3400語は古くから使われてきた日本語だけを集めたもので、カタカナ語や漢語の外来語を含んでいません。現代の日本人が普通に使っている言葉ではどうでしょうか。そこで、無作為に集めた13000語を対象に、使われている音の数を行別に集計してみました。これらの中には、外来語、和製英語、固有名詞などが含まれます。古い言葉と新しい言葉、どのような違いが表れるでしょうか。カ行、ラ行、タ行、サ行、ア行、マ行、ナ行、ハ行、ヤ行という頻度の順番にどのような入れ替わりが見られるでしょうか。結果は驚くべきものでした。一位がカ行、二番目がラ行で同じ。それどころか、なんと13000語での行別の順番は、古来の3400語のそれと完全に一致していたのです。
 どうやら、昔も今も言葉の音の使われ方に大きな変化はなく、日本人はKとRの音が大好きな民族ようです。

 言葉の音の単位には、音節(syllable/シラブル)、拍(mora/モーラ)、わたり音(phoneme/フォネーム)、音素(phoneme/フォネーム)があり、これまで私が「音」と表現してきたものは「拍」にあたります。
 「桜」を音で区切って言ってみてくださいと言われれば、誰もが[さ・く・ら]と発音するでしょう。これが拍による区切りです。音節も拍に近い単位ですが、拍に比べて少しあいまいな面があります。「学校」を音節で表したとき[が・っ・こ・う]のように多くの場合は拍と同じように区切りますが、[がっ・こ・う]や[がっ・こぅ]など、人によって異なる区切りになることがあります。この点において拍は一つひとつの音の長さが同じであり、音の区切りを明確にして言葉を扱うことができます。  次の二つは回文(後ろから読んでも同じ文)ですが、これらからも私たちが拍の単位で言葉の音を区切っていることが分かります。
「うかつにダムをひく、国費を無駄に使う」(うかつにだむをひくこくひをむだにつかう)
「世の中ね、顔かお金かなのよ」(よのなかねかおかおかねかなのよ)
 平仮名やカタカナは表音文字ですので、言葉をカナで書き表したとき、一文字が一拍(ただし[きゃ・きゅ・きょ]などの拗音は二文字で一拍)になるという特徴があり、拍は日本人にとって最も分かりやすく馴染みのある単位だと言えるでしょう。
 音素は言葉の音の最小単位で、言葉をローマ字で書き表したときの一字一字を音素と考えることができ、[さくら]は音素[s/a/k/u/r/a]に分解することができます。ついでに音素による回文(ローマ字回文)をご紹介しておきましょう。
USAGINOKONIGASU(ウサギの子逃がす)
IMAKOSOKAMI(今こそ神)
 [っ]と[ん]を除いて、日本語の拍は必ず母音をともないます。子音が連続することはありません。また、[あ・い・う・え・お]は子音をもたない拍です。ですから、3400の単語を音素に分解して集計すれば、[a・i・u・e・o]が圧倒的に多いであろうことが予想されます。ところが結果はそうではありませんでした。3400語に使われていた音素の数は、[a][i][o][u][k][r][e]の順で、当然ながら母音が上位を占めていますが、その中に[k]と[r]が割って入ってきています。音素による集計からも、日本人が[k]と[r]を多用していることがお分かりいただけるでしょう。

 さて、拍の分類として、カ行だとかサ行だとかひとまとめにしてよんでいいのかという疑問をおもちの方もおられるのではないでしょうか。厳密に言えば[たてと]の子音(無声歯茎破裂音)と[つ]の子音(無声歯茎破擦音)、[ち]の子音(無声歯茎硬口蓋破擦音)は異なっていますし、[さすせそ]の子音(無声歯茎摩擦音)と[し]の子音(無声歯茎硬口蓋摩擦音)も異なっているからです。しかし、私たち一般の日本人にとって、[たちつてと]の子音はどれもTで同じ、[さししせそ]の子音は同じSという感覚であるため、「行」で拍をまとめる場合はこれまで通り日本語の五十音で分類したときのタ行・サ行などとして扱うことにします。子音の違いによる細かな分析は、一つひとつの拍の違いについての考察の際に行うものとします。

 では、日本人が大好きな音、促音(っ)・撥音(ん)・カ行音・ラ行音について詳しく見ていくことにいたしましょう。

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