大人のための寓話集」 by含蓄王

 「肉をくわえた犬」(カワウソの子育て)
 犬は失敗を教訓に・・・できたのか?

『信じるのも信じないのも同じく危険だ。』(ファイドロス)

『投げかけられた言葉は、宝にもゴミにもなる。』(含蓄王)




 犬が、肉をくわえて橋を渡っていました。ふと橋の下を見ると、自分とよく似た犬が同じように肉をくわえてこちらを見ています。犬が首をかしげると、向こうも首をかしげます。犬がにらむと、向こうもにらみ返します。
(生意気なヤツだ。ちょいと脅かして、あいつの肉もいただいてしまおう。)
犬は、川に映った自分に向かって勢いよく吠えました。
「その肉を俺によこせ、ワン!」
くわえていた肉が川に落ちました。それを見ていたカワウソの母さんが肉を拾い上げました。
「ごちそうさま。」

 しばらくして、また、犬が肉を手に入れました。
橋を渡る途中で下を見ると、このあいだと同じように、肉をくわえた自分の姿が川に映っています。川岸からカワウソの親子が見上げています。
(俺が同じ失敗をするとでも思っているのか、馬鹿なカワウソめ。)
犬はがっちりと肉をくわえて歩き始めます。
カワウソの母さんが、犬に向かって言いました。
「犬さんは丈夫な足があっていいな。さぞや速く走ることができるんだろうね。それに、その立派な牙なら、どんなものでも引きさくことができるんだろうな。すごいなあ。」
褒められて気を良くした犬は、下を覗きこみました。
カワウソはさらに続けます。
「僕らは鳴くのが下手だけど、きっと犬さんは上手に吠えることができるんだろうなあ。」
犬は得意になって、「ワオーン」と、気取った声で吠えました。
肉が川に落ちました。
「ごちそうさま。」

 犬がまた肉を手に入れました。
(川に肉を落とすなんてもう懲り懲りだ。絶対に口を開かないぞ。)
橋にさしかかったとき、カワウソの母さんが犬に声をかけました。
「犬さん、ごきげんよう。」
(ふん!今度は何をたくらんでいるんだ?)
「向こうから大きな犬がくるよ。引き返した方がいいよ。肉を取られちゃうよ。」
(お前の話なんか聞くもんか。)
犬は知らん顔をして通り過ぎます。
すると、本当に大きな犬がやってきたではありませんか。
「その肉をよこせ。」
(やるもんか!ケンカなら負けないぜ。)
しかし、肉をくわえたままで口を開けることのできない犬は、こっぴどくやられた上に、肉を取られてしまいました。

 カワウソの母さんが子どもたちに言いました。
「いいかい坊やたち、よく分かっただろ。欲張らず、おごらず、意地を張らず。だよ。」





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