大人のための寓話集」 by含蓄王

 「わらしべ長者」(藁の錬金術師)
 山あり谷あり。錬金術師の旅は続く・・・のか?

『金儲けのうまい人は、無一文になっても自分自身という財産を持っている。』(アラン)

『運命のなかに偶然はない。人間はある運命に出会う以前に、自分がそれを作っているのだ。』(ウィルソン)



 むかしむかし、ある若者が、お寺で観音様にお願いごとをしました。
「わたしには、明日食べるお米もありません。どうか、お金持ちになれますように。」
すると、観音様が言いました。
「ここを出て、最初につかんだ物が、お前を金持ちにしてくれるだろう。」
 若者は喜び勇んでお寺を飛び出して行きました。そして、石につまずいて、すってんころりんと転んだ拍子に一本のわらしべを拾いました。 若者は、わらしべをしげしげと見つめました。
「これのことだろうか? こんなものでお金持ちになれるとは思えないなあ。」

 若者が歩いていると、一匹のアブがプーンと飛んできました。若者はそのアブを捕まえて、持っていたわらしべに結んで遊んでいました。すると、そこを通りかかった立派な牛車の窓から子供が顔を出して言いました。
「そのアブが、欲しいよう。」
「ああ、いいとも。」
若者が子どもにアブを結んだわらしべをあげると、お供の家来がお礼にミカンを三つくれました。

 また歩いていると、道のわきで女の人が、「喉が渇いた。水をください。」と言って苦しんでいます。
「水は持っていませんが、代わりにこのミカンをどうぞ。」
若者がミカンをあげると、女の人はそれを食べて元気になりました。そして、お礼に美しい布をくれました。

 しばらく歩いて行くと、馬が倒れていました。
「どうしたんですか?」
「馬が病気で倒れてしまいました。町まで行って、この馬を布と交換しなければならないのですが、これではどうすることもできません。」
「では、この布と馬を交換しましょう。」
若者が布を渡すと、男の人は大喜びで帰って行きました。
若者が馬の体をさすったり水を運んできてあげてたりすると、馬は元気に立ち上がりました。

 その馬を連れて大きなお屋敷の前を歩いていると、そこの主人が、若者の馬を見て声をかけました。
「わしは、これから急に旅に出なければならなくなったのだが、馬を持っておらんのじゃ。その馬をわしの家や畑と交換してもらえないか。」
若者は大きな家と広い畑を手に入れました。

 一本のわらしべから大金持ちになった若者のことを、人は『わらしべ長者』と呼ぶようになりました。
(原作あらすじ ここまで)

――― えーっ、こんな都合のいい話、信じられなーい。 ―――

――― ま、世の中、運だけの成金もいっぱいいるんだろうけど ―――


 その年、若者の村はひどい飢きんに見舞われました。米も野菜もとれず、食べるものがなくなって、村人たちは途方に暮れていました。
 若者は、お寺の観音様に訊ねました。
「このままでは、村人がみんな死んでしまいます。どうしたらいいでしょうか。」
観音様が答えました。
「お前の財産を食べ物に換えて、それを村人にほどこすがよい。」
若者は町まで出かけて行き、町の大金持ちにお願いをしました。
「わたしの家と土地を、お米と交換してください。」

 百俵の米が、お寺の離れに運び込まれました。村人たちは、若者が持ち帰ったこのお米を少しずつ分け合って、飢きんを乗り切りました。飢きんが去ったころには、どの米俵もすっかり空になっていました。若者は大変感謝されましたが、もとの一文無しになりました。
 「観音様、わたしはすべてを失くしてしまいました。」
「お前は、わらしべ一本から、望み通りに大金持ちになった。そして村人たちの命を救った。それでよいではないか。」

 若者が、お寺の離れの部屋を覗くと、あのとき米俵がぎっしりと詰まっていた部屋は、がらんとしています。空の俵さえも売り払って、部屋には何一つ残っていません。
 若者が「ふう。」とため息をついて去ろうとしたそのとき、部屋の隅に一本のわらしべを見つけました。お米に混じって米俵のなかに入っていたわらしべなのでしょう。

――― おっ! また、わらしべの旅が始まるのか?w ―――
――― 若者よ、次は能力と努力で本物の富を勝ち取ってくれ! ―――





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