語感とは何か?

 言葉の音が、私たちの脳に様々なイメージを呼び起こし、言葉の意味とは関係の無いイメージをも感じさせることがあります。
 『がちがち』・『かちかち』は固い。『むちむち』・『ねちねち』は柔らかい。この感じは言葉の意味だけから伝わるものなのでしょうか。『ぴちぴち』や『ぷちぷち』は意味的には固さや柔らかさとあまり関係のない言葉ですが、これらは、『がちがち』や『かちかち』ほどには、固くないけれども、『むちむち』や『ねちねち』よりは固い感じがします。(語感分析を行なうと、『がちがち』→『かちかち』→『ぴちぴち』→『ぷちぷち』→『むちむち』→『ねちねち』の順に柔らかくなって行くことが分かりますが、人によっては感じ方の違いから多少順番が前後するかもしれません。)

「サッカーのPK戦を見てハラハラ(ドキドキ)した。」
ハラハラからは不安で手に汗を握る様子は伝わってきますが、ドキドキのような心臓がバクバクするような激しさはありません。誰もが、ドキドキの方が強くて重いという印象を持つはずです。
 日本語には、同じような意味なのにニュアンスが微妙に異なる言葉が多く見られ、似たような意味なのだからどっちを使っても良いように思うのですが、私たちは無意識のうちに状況によってそれらを使い分けています。考えや気持ちを相手に伝えるとき、自分の意図が伝わりやすいように、それに適した言葉を選んで使っているのです。そして、言葉選びを行う上での大きな要素の一つに「言葉の音の響き」があり、この言葉の音が伝えるイメージのことを語感と呼びます

語感はどこから生れるのか?

 日本語では平仮名やカタカナで「拍」を容易に表現できるため、言葉の音の単位として「拍」を基準に考えがちで、語感を扱う際にも、単純に、「さくら」は{さ}と{く}と{ら}の3つの拍から語感が生じていると考えがちです。しかし、語感が音韻的な語音要素や拍のみによって生まれるのだとすれば、言葉を構成する拍の順番を入れ替えたときに語感が変わるという現象を説明することはできません。「さくら」と「らくさ」、「くらさ」の語感を比べたとき、それらが同じ語感だとは言い難いからです。

 言葉の中の音を入れ替えることで語感が変化するという現象は、音素を対象にした場合にも同様のことが起こります。「さくら」{sakura}の音素を並び替えて「からす」{karasu}とすることもできますが、「さくら」と「からす」とでは意味的なことを抜きにしても全体の音の響きは異なっていると感じます。

 言葉の中の音の入れ替えによって何が変化したのでしょうか。はっきりと言えることは、音素の前後の関係(あるいは、拍の前後の関係)が変わったという点で、このことから、音の繋がり方が語感に影響を与えていると推測することができます。音の繋がり方とは、「現在発声している拍の最後の音素+次に発声される拍の最初の音素」という組み合わせのことです。

{sakura}と発音するとき、s→a→k→u→r→a と順に音素を繋いでゆきますが、そのとき一つ一つの音素が独立して途切れているわけではなく、sの次には間髪を入れずaの音が、aの次にはk、kの後にはuという風に最初から最後まで途切れることなく音は続いています。
 言葉の音(音素)の繋がりを記号で表してみましょう。「さくら」は、
sakura → 「sa」+[ak] +「ku」+ [ur] +「ra」
とすることで、連続した音の繋がりとして表現することができます。このように、各音素を次に来る音素とセットにすることで、切れ間の無い連続した音の流れとして言葉を扱うことが可能となります。

 {sa}と{ku}と{ra}は拍であり、 {ak}と{ur}は渡り音です。つまり、音素の組み合わせである拍と渡り音によって言葉の音とその繋がりを完全に 表現することができ、拍と渡り音によって語感が作られていると考えられます。

C-sense語感分析とは?

 その音(拍および渡り音)がどのような意味の言葉にどの程度用いられているのか、意味毎の出現頻度を統計的に求めれば、「この音は、『柔らかい』や『曖昧な』などの表現に向いているが、『速い』や『小さい』の表現には向かない」と言った、音の持つ傾向を知ることができるだけでなく、音と意味の関係を数量的に示すことが可能となります。
 音の一つ一つに、イメージの方向と大きさを表す、言わば“イメージのベクトル”を与えることができ、一つ一つの音は、イメージの数だけのベクトルを持っていて、言葉全体から発せられる様々なイメージは、言葉を構成する音のベクトルの集まりとして表される。統計的に一つ一つの音が持つイメージのベクトルを確定してさえしまえば、シンプルな計算式によって言葉全体が持つ多様なイメージを数値として取り出せる ことが、この語感分析法の大きな特徴であり利点でもあります。

 C-sense語感分析とは、一言で言うならば、分析の対象となる言葉が、同じ長さの音で構成される一般的な言葉と比べて何倍の語感の強さを持つのかを数値で示す分析法です。
 音と意味との関係から全ての拍と渡り音に、様々なイメージの大きさを表す「語感定数」を定め、分析の対象となる言葉を構成する拍と渡り音の「語感定数」を積み上げることでその言葉の「固有イメージ」を取得し、この「固有イメージ」の大きさを、日本語の言葉が持つ「平均的イメージ」の大きさで割った値を語感の強さとする。これが、C-sense語感分析法の仕組みであり、式で示すなら、
「語感の強さ」=「固有イメージ」/「平均的イメージ」
で表すことができます。
 「固有イメージ」とは、その言葉を構成する拍と渡り音の「語感定数」によって決まる値で、分析の対象となる言葉がどんなイメージを持つのかを知ることができ、「平均的イメージ」とは、分析の対象となる語と同じ長さの言葉が持つ平均的な語感を表すもので、「標準定数」によって決まる値です。

※C-sense ® の「C」は「Common」を表し、「C-sense」 =「共通の感覚」という意味の造語です。

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