大人のための寓話集 by含蓄王

変身(引きこもりの家のカフカ)

日本の若者よ、甘えを捨てろ!


『諸君が自分自身に対して関心を持つのと同じように、他人が自分に関心を持っているとは期待するな。』
(バートランド・ラッセル)


【第一章】

セールスマンをしているグレゴール・ザムザは、ある朝自室のベッドで目覚めると、自分が一匹の巨大な毒虫になってしまっているのに気づいた。
仰向けの姿勢のまま、グレゴールは今の仕事に対する様々な不満に思いを募らせる。出張ばかりで気苦労が多く、顧客も年中変るために心からうちとけ合うような人づき合いも出来ない。

――学生をしているグレゴール・ザムザは、ある朝自室のベッドで目覚めると、自分の心が毒虫のようになっているのに気づいた。
仰向けの姿勢のまま、グレゴールは今の生活に対する様々な不満に思いを募らせる。気が弱いばかりに気苦労が多く、猜疑心が強いために心からうちとけ合うような友だちも出来ない。――



【第二章】

出勤して来ないグレゴールの様子を見に店の支配人がやってきた。怠慢を非難する支配人に対して、グレゴールは部屋の中から弁解する。
「では、支配人さんに入っていただいてかまわないね。」と、いらいらした父親が再びドアをノックした。「いけません」と、グレゴールは言った。部屋の外に気まずい沈黙がおとずれた。

――学校に来ないグレゴールの様子を見に先生がやってきた。怠慢を非難する先生に対して、グレゴールは部屋の中から無視する。
「では、先生に入っていただいてかまわないね。」と、いらいらした父親が再びドアをノックした。「ダメだ!」と、グレゴールは言った。部屋の外に気まずい沈黙がおとずれた。――



【第三章】

グレゴールは自分の部屋に閉じこもって、ひっそりと生活することになった。妹のグレーテは、グレゴールの姿を嫌悪しつつも食べ物を差し入れた。
ある日、怒りを爆発させた父親がグレゴールにリンゴを投げつけるが、それによって彼は深い傷を負い、満足に動けなくなってしまう。

――グレゴールは自分の部屋に閉じこもって、テレビゲームとネット三昧の生活をすることになった。妹のグレーテは、グレゴールを嫌悪しつつも食べ物を差し入れた。
ある日、怒りを爆発させた父親がグレゴールを強引に引きずり出そうそうとするが、彼はますます頑なに部屋に閉じこもるようになってしまう。――



【第四章】

妹のグレーテが、下宿人の前でヴァイオリンを弾くことになった。彼女は得意気に演奏するが、そこへヴァイオリンの音色に感動したグレゴールが自室から這い出してきたため演奏はぶち壊しとなってしまう。
グレーテはテーブルを両手で激しく叩いて言った。
「もう我慢できないわ。こんな怪物の前で兄さんの名前なんか言いたくはないわ。私たちはこいつから離れなければならないのよ。これまでこいつの世話をし、我慢してきたじゃないの。誰も私たちを非難することはできないわ。」
父もそれに同意した。

――妹のグレーテが、客人の前でヴァイオリンを弾くことになった。彼女は得意気に演奏するが、ヴァイオリンの音が癇に障ったグレゴールが自室の壁や床を叩きまくり蹴りまくったため演奏はぶち壊しとなってしまう。
グレーテはブチ切れて、テーブルを両手で激しく叩いた。
「もう我慢できないわ。あんなクズを兄さんなんて呼びたくないわ。私たちの方こそあいつを無視しなければならないのよ。これまであいつの世話をし、我慢してきたじゃないの。誰も私たちを非難することはできないわ。」
父もそれに同意した。――



【第五章】

グレゴールはやせ衰えた家族の姿を目にしながら、おずおずと部屋に戻った。幸せだったころの記憶を辿りながら、体から力が抜けてゆくのを感じた。鼻孔から最後の一息がもれて出ると、彼はそのまま息絶えた。

――グレゴールは、家族がついに自分を見捨てたことを知り、ショックを受ける。幸せだったころの記憶を辿りながら、体から力が抜けてゆくのを感じた。鼻孔から最後の一息がもれて出ると、彼はそのまま息絶えた。――



【最終章】

父と母と妹は、久しぶりの安息感を味わっていた。そして今日という日を休息と散歩とに使おうと決心し、電車で郊外へ出た。彼ら三人しか客が乗っていない電車には暖かい陽がふり注いでいた。三人は座席にゆっくりともたれながら、未来の見込みをあれこれと相談し合った。あれほど真っ暗だった先のことも、グレゴールさえいなければ、決して悪くはないということが分かった。

――父と母と妹は、久しぶりの安息感を味わっていた。そして今日という日を休息と散歩とに使おうと決心し、電車で郊外へ出た。彼ら三人しか客が乗っていない電車には暖かい陽がふり注いでいた。三人は座席にゆっくりともたれながら、未来の見込みをあれこれと相談し合った。あれほど真っ暗だった先のことも、グレゴールさえいなければ、決して悪くはないということが分かった。――

(最終章のみ同文)