大人のための寓話集 by含蓄王

金のタマゴを産むめんどり(負のスパイラル)

判断力を失った男の末路は?


『自己の欲するものを持つことは大いなる幸福である。だが、さらに大いなる幸福は、持っているもの以外に何も望まないことである。』
(メネデム)


『過ぎ去った不幸を嘆くのは、すぐにまた新しい不幸を招くもとだ。』
(シェイクスピア)


 あるところに、数羽のニワトリを飼っている男がおりました。男は、そのタマゴを売って細々と生活をしていました。
 ある日のこと、一羽のめんどりが金のタマゴを産みました。
男は大喜びをして、叫びました。
「これは高く売れるぞ!」
 ニワトリは次の日も、金のタマゴを一つ産みました。次の日も、また次の日も、毎日一つずつ、金のタマゴを産みました。貧しかった男は、金のタマゴを産むめんどりのお陰で新しい家に住み、ご馳走を食べ、きれいな服を着ることが出来るようになりました。

 めんどりは今日も金のタマゴを一つ産みました。
「おれもずいぶんとお金持ちになったが、おれよりも大きい家に住んで、おれよりも高い服を着ているやつは大勢いる。このめんどりがもっとたくさんタマゴを産んでくれたらなあ。」
金のタマゴを手に持って、男は考えました。
「このめんどりの腹の中には、金の固まりがあるに違いない。それを取り出せば、おれはすぐに大金持ちになれるぞ。」
男はめんどりのお腹を切り裂きました。しかし、金の固まりなど出てきませんでした。

(原作あらすじ ここまで)


――― あーあ、やっちゃったね。男、欲張りすぎ ―――


 男は茫然と立ち尽くしていましたが、そのうちに、やり場のない怒りがこみ上げてきました。そして、狂ったように他のニワトリたちにけしかけました。
「お前たちも金のタマゴを産めるはずだ。さあ、産め!」
棒を持って追い回します。
「さあ、産め!」
棒で体を叩きます。
「さあ、産め!」
あまりにひどく叩いたので、ニワトリたちは次々と死んでしまいました。

 男は、ぜいぜいと息を切らしながら、手に持っていた最後の金のタマゴことを思い出しました。
「そうだ、このタマゴから雛を育てれば、きっと金のタマゴを産むニワトリになるに違いない!」
男は、金のタマゴを懐に入れて、朝も晩も温め続けました。そして、三週間ほどしたある日、ついに殻を破って雛が出てきました。男はもう、天にも昇る心地でした。
「よし、これでまた金のタマゴが手に入るぞ。」

 ところが、しばらくして、男は悲しい事実を知りました。
 大切に育てていたあの雛は、実は雄鶏だったのでした。

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